ペルシャ絨毯とは

世界の数ある絨毯の中でも、ペルシャ絨毯は実用品であり、そして日常瀬活に密着しながら、芸術品としての価値を失わないという二面性を兼ね備えています。

それはつまり、素材の良さ・完成するまでのそれぞれの工程における職の優れた技術に因るものです。ゆえにペルシャ絨毯は、他の素材にはない驚異的な丈夫さを持ち。時が立つほどにその色彩は深みと落ち着いた輝きを増し、踏まれるほどに益々しなやかになり、その美を増してゆくのです。

I.歴史

ペルシャ絨毯の起源は定かではありません。現存する最も古いものは、南シベリアでシジア国の首長の墓から氷づけになって見つかったもので、今から約2500年前に織られたものと推定され、現在はレニングラードのエルミタージュ博物館に所蔵されています。日本へは、おそらくシルクロードを通って入り、その一部は正倉院に現存しています。また、京都の高台寺には豊臣秀吉が愛用したと伝えられる、ペルシャ絨毯製の陣羽織が残っています。

II .素材

地糸(地となる縦糸と横糸)は綿または絹を使い、目の細かい絨毯には、より細い絹糸が使われることが多いのです。パイル糸 (表面に出る糸)は、羊毛・絹が使われ、日本にはあまり入って来ていない、山羊・ラクダの毛も使われます。イランでは、羊は北の寒い地方で放牧されるため、そこで育つ羊の毛は、 寒暖差の大きな気候に耐えるのに充分な保温力を持っています。そのペルシャ羊の子羊の産毛(コルクウール)は古来、 絹より高価とされていました。絹は約400 年前から使われ、 養蚕に適した気候の中央イランの北部で生産されるものが多いです。その地方の良質な絹糸は、光沢に富むだけでなく細くしなやかで、大変強靭です。

Ⅲ.染色

染色には数種の工程があります。まず糸を洗い、色が染み込みやすくします。そしてさまざまな染斜を調合して色を作り、糸をつけ、その色を定着させるために糸を何度も繰り返し煮沸したり、媒染剤の溶液に浸します。その後、化学染料を洗い落とします。それらの工程を何度か繰り返し、最後に日光に当てて乾燥させます。染料はほとんどが自然染料です。一部化学染料が使われますが、良質な作品には必ず自然染料が使われます。自然染料の原料は、例えば、葡萄の葉やザクロの皮から黄色・カシワの葉から黒・茜の根から赤・藍から青、また昆虫やトルコ石などの鉱物からもさまざまな色が得られます。

Ⅳ.図柄

ペルシャ絨毯の魅力のひとつは、昔ながらに受け継がれた幾種類もの文様です。例えば、メヘラブ文様(イスラム寺院の形を表している)・狩猟文様・イスリーミー文様(唐草文様)・シャーアッバス文様(ペルシャ中世の王アッバス1 世の文様)・鳳凰文様•生命の樹文様(生命賛歌・長寿願望を意味する)などがあります。

メヘラブ文様
狩猟文様
イスリーミー
文様
シャーアッバス
文様
生命の樹文様

Ⅴ.織り

精密な方眼紙に下絵として描かれたデザインをもとにして、1本1本の糸を織り手が結び目(ノット)を作って織りあげていきます。ペルシャ絨毯の織り機は地面に水平に置く水平織り機と、地面に垂直に備え付ける縦型織り機に大別されます。それぞれ、 前後 2 列に縦糸を張り、手前または下から糸を結んでいきます。前後2本の縦糸に糸を絡ませパイルを結び、ノットを作り、ナイフでカットします。そうしてノットが横一列できると、横糸2本を縦糸に通します。そして鉄櫛でパイルをたたき押し下げ、ノットを密に詰めていき、パイルを切り揃えます。この手作業を膨大に反復してペルシャ絨毯はでき上がりますが、熟練した織り手であっても、1 日 5000 ノットほどしか結べないということです。

VI.仕上げ

織り上がった絨毯は、長期にわたる汚れを落とすために、洗いにかけられます。その後、歪みなどを矯正しながら天日で自然乾燥させ、絨毯の表面を刃物で刈り込み表面を平にします。ブラッシングをして最終的に余分な毛を落とします。これらの仕上げ作業で、 非常に堅かった織り上がり直後の絨毯は、しなやかになり文様は鮮明になります。

このように、気の遠くなるような作業が、それぞれの工程の専門職人の手によって行われ、数ヶ月、または数年の歳月をかけて、やっと 1枚のペルシャ絨毯は完成されます。数百年変わらぬこれらの手作業の緻密さと大胆さこそが、ペルシャ絨毯が常に世界ナンバ ーワンである所以なのです。